STEP小児科第3版用 参考:DSM-5と精神疾患
 DSMはDiagnostic and statistical Manual of Mental Disorders(診断と統計のための精神疾患の手引き)の略で,1952年に第1版(DSM-Ⅳ)が公表され,以来2000年のDSM-Ⅳ-TRを経て2013年のDSM-5に至っています。本書では,DSM-Ⅳに沿って解説いたしましたが,現在ではDSM-5が広く認知されるに至りました。そこで,「Simple Step精神科(岸本年史・監修,高橋茂樹・著)」から当該疾患に関するDSM-5の要点を抜粋・引用しましたので,参照してください。なお,詳細に関しては,引用させていただいた「Simple Step精神科」を熟読されることをお勧めします。
 
●「知的障害(精神発達障害)」について → p.411〜412
 知能intelligenceの概念は多義的で,抽象的な思考力,判断能力,学習能力,環境適応力などからなります。知能低下を呈する病態としては,知的能力障害(知的発達症)と認知症があります。

■知的能力障害 intellectual disability
(知的発達症/知的発達障害 intellectual developmental disorder)
 生後からおおむね18歳までの間に十分な知能の発達を遂げられず社会的な適応困難を呈する病態です。かつては精神遅滞mental retardationと呼ばれていましたが,差別的な響きをもつことから,DSM-5では知的能力障害に置き換えられました。
 社会的な適応困難は日常生活や職業,学習などに対する差し支えを意味しますが,測定された知能指数が低くても,社会的に適応しているのであれば,知的能力障害と診断する必要はないという趣旨です(立派な大学を卒業しても,社会的に適応できない人々の方が,社会にとって負担です)。したがって,
知能指数は診断の補助に過ぎず,社会適応能力を包括的に評価して診断および重度の評価を行うようになっています。

 
●「広汎性発達障害」について → p.412〜413

 DSM-Ⅳは広汎性発達障害pervasive developmental disorder(PDD)という概念を設け,これを自閉性障害,Rett障害,小児期崩壊性障害,Asperger障害,特定不能の広汎性発達障害を列挙していました。なお,特定不能の広汎性発達障害は,発症年齢が遅い,症状が定型的ではない,診断閾値に達しないなどの理由で他の広汎性発達障害と診断できない病態を意味します。これに対して,DSM-5すべて自閉スペクトラム症としてまとめ,下位分類を廃止しています。
 つまり,DSM-5は重症から軽症まで区別せずに,一定の診断基準を充たせばすべて自閉スペクトラム症とし,それが虹の赤色から紫色のようにスペクトラムをなし,軽症のケースは健常者に近いという発想を採用しました。そのうえで,患児が必要とする支援レベルによって3段階(非常に十分な支援のレベル1,十分な支援のレベル2,支援のレベル3)に分け,これを追記するように求めています。なお,この支援レベルは,社会的コミュニケーションの欠陥と限定された反復的行動のそれぞれについて評価します。

■自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
 autism spectrum disorders(ASD)
 自閉スペクトラム症は,社会的コミュニケーションの欠落限定された反復的行動を特徴とし,これが幼児期早期から認められ,しかも社会的機能等を障害しているときに診断されます。なお,これらの症状が知的能力障害に起因するケースは除外されます。
 本症の重症型は1943年に報告され,統合失調症でみられる自閉(自分の殻に閉じこもって周囲との接触が少なくなる状態)を本症の中核症状と考えたことから,“早期幼児自閉症”と命名しました。現在も原因は不明ですが,脳機能の発達障害であることは確実で,遺伝要因に環境因子が加担して発症すると考えられています(統合失調症の幼児型ではないし,過去に指摘された母子関係の歪みとも無関係です)。なお,環境要因の1つとして母体のバルプロ酸内服が指摘されています。本症は男児に多く,性比は4:1です。

 
●「注意欠陥/多動性障害」について → p.413〜414

■注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害
 attention-deficit/hyperactivity disorder(ADHD)
 不注意多動および衝動的な行動を特徴し,それが学校や家庭などの複数の状況で発現する病態です。複数の状況を要求するのは,個別の環境に起因するストレス反応でないことを確認するためです。また,不注意,多動,衝動性は発達の程度を考慮して“不相応”で,学業や就業に直接支障があることが必要です。子どもは大人に比べて落ち着きがなく,我慢が苦手なのは当たり前で,これを異常と評価したのではやんちゃな子どもたちがみんな注意欠如・多動症と診断されてしまいます。また,小学校の授業1コマを2時間にしたら,授業の後半にはみんなが注意欠如・多動症と診断されかねません。本症は歴史的に過剰診断の危険が指摘されており,“不相応”には慎重な評価が求められます。
 そして,注意欠如・多動症の症状は
12歳以前に存在していなければなりません。これは12歳以前に診断されなければいけないという意味ではありません。集中力や行動制御に対する社会の要求は就学とともに高まり,進学・就職するとさらに要求のレベルが上がってきます。したがって,症状がストレス反応でないことを明らかにするため,振り返ってみると以前から存在したという事実が必要です。なお,DSM-Ⅳは7歳以前であることを求めていましたが,成人の注意欠如・多動症の存在が明らかになった関係で,DSM-5はこの年齢を12歳以前に引き上げました。